121<災い転じて?>

「はぁぁぁ〜…」
どこまでも高く青く、さわやかな空。希望と勇気を与えてくれるような、そんな青色…
その空の下、城下町にて一人の男――サトチーがそれにはとても不似合いな溜息をついた。

「どうして僕はこう…昔から運がないんだろう…はぁ…」
ヘンリーにほんの数分の差で先を越された…ホントに運が無いなあ。
とか思ってたらいつのまにか昔の薄幸なことまで色々と…鮮明に思い出してしまった。テンション最・悪。
普段妻や子供達、家臣や友人達と過ごしているときは幸せだなあ、と思ってるんだけど。昔のことを一度思い出すと…きりがなかった。
「はぁぁぁ〜…」
また、溜息が出た。何だかさっきからずっとこんな調子のような…。
(いけないいけない…僕は優勝しないと。あんまりこんな考え事してちゃ…)
と、顔を上げたその時。

「きゃぁぁぁー!!」
「!?…女の子の悲鳴!襲われてるのか!?」
助けなくちゃ、と声のした方に駆け出したサトチー。そこの曲り角を曲がったところか!
サトチーは勢い良く道を折れ…

「…待ってよメイドさ〜ん!!あははははぁハァハァ…」
「い、いやぁぁぁ〜!キモイ、キモイよー!こないでぇー!」

硬直した。
「…ピピン……」
視界に入ってきたものは、メイド姿の女性を追い掛け回すピピンの姿。とても、楽しそうだ。これ以上ないほどに、楽しそうだ。
…一緒に旅してたときも、あれほど楽しそうな表情は見たこと無いなあ。ふふふ、微笑ましいね。ああ、微笑ましいとも。

2人の姿はまたすぐに消えた。止める気力は、無かった。
ああ、そこまで面倒見きれないっていうか他人だと思いたい…今は。他人。僕とピピンは他人。あんな人見たこと無いなあ!
(少し…休憩したい…精神的に………ああ、ここでいいか)
サトチーはぐったりしたような…少し笑っているような表情で、その「ルイーダの酒場」へ入っていった。

災い転じて福と成す…か?

【サトチー 現在位置:ルイーダの酒場 所持品:?
 行動方針:とりあえず休憩・身内に見つからないように移動  願い:グランバニア王家のネーミングセンスを一般人並にする】
【ピピン 現在位置:アリアハン城下町 所持品:? 目的:チェリを追う】
【チェリ(混乱) 現在位置:アリアハン城下町 所持品:? 目的:ピピンから逃げる】








122<ガラス玉のような瞳>

ファリスはクジャから逃げられたものの、随分心身を消耗してした。
対峙しているだけで身から力が削げ落ちていく、そんな感じがクジャにはあった。
「あいつを叩ける相手なんているのか……」
実はもういたのだが、それはファリスの知るところではない。

ファリスは街道を北へ向かう。
平穏そのものといった平原がつづいているが、どこまでそれが続くかはわからない。
「……」
急に立ち止まる。
そういえばファリスはこのゲームで叶えてもらう願いというものが漠然としていた。

タイクーン国の繁栄を願う、というのはあるかもしれない。
「レナがきっちりとした王女になってくれればなぁ」
あるいは海賊の頭であったことを考えると、航海が少しでも面白おかしいものになるために、大荒れの嵐
というものを好きなときに呼べるようにする、というのも悪くはないことであった。
「俺の行くところ、常に荒れ模様ってわけか」

それにしても、あのクジャとの一幕からうって変わってのん気のものだった。
タイクーンも海賊も、なんだか他人事のようにファリスは思えてきた。
ふんわかした雲が空を流れている。風がとても心地良くて眠りを誘われそうだ。
変わらない風景、まだのんびり街道は続いていた。

「……なんだ」
ファリスは急に足もとがおぼつかなくなった。
とてもまぶたが重く、目の前は暗くなり、肩から腰にかけて力が抜けていく。
途方もなく眠い。
ファリスは地面に横倒れになった。
なぜこんなだだっ広い平野で、見晴らしが良すぎてすぐ誰かに見つかってしまう、無防備な極まりない状態で、
いったい何故突然――。
ファリスの意識は途切れた。



ファリスの背後から杖を振った者、それは操られたティナ。
ティナは何らかの植物の匂いがこもる標的を狙って杖を振ったのであった。
ラリホーの杖は確実にその効力を発揮し、ファリスを深い眠りにつけたのである。
はっきりと対象が行動不能になったのを確認したガラス玉のようなティナの瞳がかすかに震えていた。

歩き詰めたティナは、ファリスの身体を隅々まで調べ上げた。
仰向けになっていた彼女を今度はうつ伏せにして、衣服も剥いで、何の感情も示さずに。
所持品である剣が出てきたが、それには目もくれなかった。

一通り調べて種らしきものを持ってないこと――植物の匂いが体についていたのは以前彼女が森の中を歩いて
いたから――がわかると、剥いだ服をファリスの身体の上に落とした。
そして向きを変え、前をキッと見据えて歩き出していった。
ファリスはほとんど草の上に捨てられたような形のままで。

【ティナ(無意識) 現在位置:レーベ南の平原 所持品:E操りの輪・ラリホーの杖
 行動方針:ワッカに服従(キーアイテム探索) 願い:(子供たちの幸せ)】
【ファリス 現在位置:レーベ南の平原 所持品:たまねぎバスター 行動方針:眠り 願い?】








123<卑怯な手>

ドガァァァァァァァアアアアアア!!!!!!!

「また爆発…ねえ、もっと速く走れないかな。早くここから離れたいの。」
「クェッ」
レーベ付近をのんびりとチョコボに乗って散歩していたリディア。
しかし、どうもあたりが騒がしい。村の方角で大爆発が2度も起こり、
メイドが何人か村から走って出ていくのが見える。
おそらく危険な参加者がいるのだろう。
前には茂みが広がっている。ここならやり過ごせるだろう。


「ファイ『マホカンタ!』」
強烈な炎がイブールを襲うが、一瞬で結界を張り、跳ね返す。
しかし、ルビカンテには吸収されるだけである。
「今度はこちらから行くぞ!」
イブールの口から、冷たく輝く息が放たれる。あたりが凍りつくほどの威力だが、炎のマントがそれを遮断する。
「何度繰り返せば分かる?私には冷気も炎も通用しないぞ!」
「なら、これならどうだ?イオナズン!」


「きゃっ」
近くで爆発が起こる、よくみると海岸の方で誰かが戦っているようだ。
ハデな衣装を付けた爬虫類型モンスターと、…あれはルビカンテ。
しかも、少し離れたところに誰かが倒れている。
「大変。助けなきゃ」
「クェ!」
両者は戦いに夢中で気付いてはいない。
リディアは意を決して海岸に降りていった。



「イオナズン!」
広範囲に大きな爆発が起こる。熱に平気であっても、爆風に飛ばされるのを防ぐため、ルビカンテは防御の姿勢をとる。
そこに、イブールが殴りかかる。強烈な閃光、さらにマントで顔を隠したことにより、ルビカンテにイブールの姿は見えない。
もらった。
痛恨の一撃…ミス!

「な…」
「お前の行動は、もはや見切った。先ほどから同じ攻撃パターンの繰り返しばかりではないか。
 ようやく攻撃方法を変えてきたようだが、すでに予測済みだ。火燕流!」
「ぎょえー!」
至近距離で放たれた火燕流がイブールを直撃する。滑稽な悲鳴をあげながら、そのまま数十メートル吹き飛ばされる。
支給品はそのまま吹き飛ばされてしまった。
「グ…何とか耐えられたが…マズイな。このままでは…ん?」
先ほど殴りつけた男を助けようとしている、いかにも無防備そうな女。
こちらにはまだ気付いていないようだ。
イブールがニヤリと笑う。

茂みの方にイオナズンを放った。大きな爆発が起こる。
リディアもチョコボも、そちらに気をとられてしまった。そこへイブールが素早く近づく。
「!!!」
彼女らが気付いたときにはもう遅い。
イブールはリディアの首を掴んだ。
驚いたのはルビカンテである。
「お前は… 貴様ァ!どこまでも卑怯な手を使いおって!」
「ククク…知り合いか?初めからこうすればよかったわ。人間の盾だ。もちろん攻撃してきても構わんぞ。
 これが防いでくれるからな。一つ言っておくが、お前の攻撃でこの女が死ねば失格するのはお前になるぞ」

【イブール 所持品:? 現在位置:レーベ西の海岸 行動方針:ルビカンテを倒す 願い:ミルドラースの世界征服】
【ルビカンテ 所持品:炎のマント 現在位置:同上 行動方針:イブールを倒す 願い:?】
【リック王子{気絶・重症。危険状態} 所持品:? 現在位置:同上 行動方針:気絶 願い:?】
【リディア{人質状態} 所持品:魔法のビキニ 現在位置:同上 願い:母の蘇生】








124<頼りにならない>

ネリスは途方にくれていた。
目の前で倒れている男性は一向に目を覚まさない…それどころか嫌な夢でも見ているのかうんうん魘されている。
こんな状況だし叩き起こしちゃえばいいのかもしれない…が、何となく抵抗があった。
いかにも頼りなさ気な表情に長い金髪、最初見たときは女性かと思った…何というか…綺麗な顔立ちの…王族とか、貴族的。
着てる服は吟遊詩人風だけど、多分実際に…。叩き起こしても良いものなのかな…。
「うう…ん、アンナ…ア、ンナ…」
ずっとこんな調子で魘されている。油汗を浮かべた苦しそうな表情。今だけ手を握ってあげてるんだけど効果は無いみたい。
アンナ…恋人の名前なのかな?

ふと、ネリスの心に彼女のいわゆる恋人――カシムの顔が浮かんだ。
カシム…今何をしてるんだろう。私の病気が治ったら、きっとカシムも喜んでくれるよね。
いつも病気のことで心配ばかりかけてるもの。
鮮明に思い出せる恋人の笑顔。ネリスは物思いにふけっていた。しかし、

「…おーい、どうしました?」
「!」
唐突に振ってきた男の声に驚きで一瞬心臓がきり、と痛む。反射的に腰にくくりつけてある刀――青龍偃月刀に触れ…
直ぐにその手を降ろした。井戸の上から除きこんでいる男性には警戒する必要がなさそうだった。
「ちょっと事情があって出られないんです…助けて下さい!」
「……。わかった、ちょっと待ってて下さい」
男性は少し考えたようだったが、すぐにロープを伝って降りてきてくれた。
緑髪の、これまた王族風の服装の男性。ネリスの顔と仰向けに寝かされている男性の顔とを交互に見る。


ネリスはおおまかに事情を説明した。
ここが自分の出発点だったこと。
自分が病持ちで、ロープを伝って井戸から脱出することが出来そうに無く、狼煙を上げて助けを呼んでいたこと。
つい先程、唐突にこの男性が落ちてきたこと。

ネリスの話を聞いた青年――ヘンリーは少し考えた後頷く。
「なるほど…俺なら…あなたを抱えて井戸を出るくらいなら、多分出来ますけど」
「本当に!?」
ヘンリーの言葉にネリスが少し勢い込んで聞き返す。と、興奮したせいでまたげほげほ…と咳込んでしまった。
ヘンリーが大丈夫?と覗きこんできた。大丈夫ですと苦笑する。
「…ただ、自分で言うのもなんだけど俺はそこまでお人好しな類じゃないもんで。何かお礼が欲しいですね」
「お礼…ですか。それなら…これでどうですか?」
ネリスはそう答えながら、袋の中から棘の鞭とバンダナ――先程メダルおじさんの家から確保したそれをヘンリーに差し出した。
「ああ、ありがとう。それでいいよ」
ヘンリーはあっさりと頷き、それを受け取った。
「武器ならあの家に、杖とかブーメランもあったみたいだけど…」
「いや、いい。俺にはこれがしっくりくるんだ」
そう言いながら棘の鞭を一度地面に向かってピシィ!と振るうと何やら満足そうな表情でベルトにくくりつけた。

「…ところで、そっちの人は?何か魘されてるみたいだけど」
「ああ。この人、少し前からずっとこんな調子なの…」
「ふ〜ん…こいつも見たところ王族とか、そんな感じだけど…」
ヘンリーはギルバートに近づくと上半身を起こさせ、

「こら、起きろ!」

パシッ!
軽く頬を叩いた。

「…ん…うう…」
ギルバートの目がゆっくりと開き…直後、大きく目を見開いた。
「…ッ!う、うわあああ!!な、な、何!!!」
恐怖で顔を引きつらせ暴れるギルバート。頬っぺたを叩かれて目を覚ましたとたん、目の前に見知らぬ男がいる訳だ。
驚くのは当然だけど…ここまで青ざめて暴れることもない…よね。
「あ、ちょっとこら落ち着け…うわっ」
ヘンリーが必死でギルバートを抑えこむ。

ネリスは思った。
失礼だけど…頼りなさ気な男は、本当に頼りにならなかったのだと。

【ギルバート 現在位置:アリアハン井戸内部 所持品:チキンナイフ
 行動方針:井戸から脱出 願い:アンナにもう一度会う】
【ネリス 現在位置:アリアハン井戸内部  所持品:青龍偃月刀、力の指輪、神秘のビキニ(服の下)
 行動方針:井戸から脱出 願い:心臓の病気を治す】
【ヘンリー 所持品:とげの鞭、守りの天蓋(×3)、疾風のバンダナ(未装備)、ラックの種
 現在位置:アリアハン井戸内部 行動方針:ネリスとギルバートを井戸から脱出させる 願い:?】








125<バッツの嘘>

アリアハン城門前の小さな橋に、異質な空気が流れていた。

アルテマウェポンを握り締めゆっくりと歩くソロ――バッツに冷たい視線を向けて。
バッツがそれに合わせて、冷汗を浮かべながらゆっくりと後退する。
一歩。

戦うか。
いや、無理だ。自分は丸腰、相手は剣。加えてこの殺気と気配――こいつは強い。死にたいのか、バッツ?

一歩。
逃げるか。
いや、無理だ。目の前は塞がれ、後退して城中へ逃げ込むしかないが…隙が無い。死にたいのか、バッツ?

一歩。
(くそ…どうする、どうする…?)
この状況を打破するような策が無い…見つからない。話し合いの通用する相手じゃない。

一歩…バッツの背中が城壁に触れた。
――頬を冷汗が伝った。逃げられない。

ソロの狂気に満ちた目が吊り上がった。アルテマウェポンを勢い良く振り上げる!
一瞬の判断で勢い良く右に飛び、直撃を避けるがソロはそれを許さない。避けきれないバッツの左肩から鮮血が飛び散る。
「―――ッ!」
バッツが声にならない声を上げる。と、この時だった。彼の中での『名案』が浮かんだのは。
バッツはもう一度アルテマウェポンを振り上げるソロの後ろに視線をやり――目を見開くとこう叫んだ。

「―――ピサロ!?」
「ッ!!何だって!!?」
ソロがアルテマウェポンを降ろし、バッツの視線の方角――背後を振り返った。
今だ!バッツは走った。

「どこだ、ピサロ!ピサロ!」
城門前の小さな橋を渡り、憎い仇名前の叫びながら辺りを見渡す。誰もいない…!?
「ピサロ!どこだ…殺してやる!」
怒りに任せて大声でもう一度叫ぶソロ。と同時に
ガアアァァン!!
城門の閉まる音が辺りに響き渡った。

「はぁっはぁっはぁっ…くっ…あんな子供騙しに、引っかかるなんて…へへ…」
バッツは城門の内側にもたれて呼吸を整えていた。怪我をした左肩を抑えている。
この状態では城門を閉めるのも一苦労である。
ピサロって奴に相当執着してたみたいだったからな…多分、もう大丈夫だろう。
「とりあえず、肩の治療だな…」

背後からのよく響く音に慌てて振りかえったソロ。城門が絞まっていた。そして――バッツがいない。
ソロの目がすぅ…っと細められた。理解したのだ…騙されたのだと。
「…嘘をついたな。嘘をついたら、殺すって言ったのに…」
見てろ。
城門を閉めたっていくらでも入る方法はあるんだ。例えば…窓を割るとか、魔法で城壁を破壊するとかね。

【バッツ 現在位置:アリアハン城一階 所持品:安眠枕 行動方針:怪我の治療 願い:今の所無し 】
【ソロ 現在位置:アリアハン城門前 所持品:アルテマウェポン 行動方針:バッツを殺す? 願い:ピサロの完全抹殺 】








126<幸運な女、薄幸な男>

チョコボに種探索を任せたミネアは酒場の二階、カウンター裏にあった宝箱へと行きついた。
これがお目当ての品なのか。
「それなの?」
チョコボが宝箱を軽くつつきながらクェッ!と鳴いた。
どうやら当たりらしい。

「ありがとう、ちょっと降りるね」
チョコボから降りてカウンターへと入るミネア。
…それにしても大きな宝箱。大量に入ってるのかな…
「よい、しょっ…」
その巨大で…蓋も重い宝箱を開ける。

「やったわ…当たりね!」
溢れんばかりの種。
何かあったときのため〜っと思いながら袋に賢さの種を余分に入れ、ついでに一つ頬ばった。
「ふふ、これ、結構美味しいのよね」

最初はこんな鳥、どうしろっていうの?…と思っていた。
でも乗ってみると意外と快適。さらにキーアイテムまで見つけてくれた。
今はとてもついてる。これなら優勝も無理ではないと思う。
(待ってなさい、姉さん)
ミネアは満足そうな表情で再びチョコボに乗り、階段を降りて行こうとした…が、
その階段から人が上がってくる足音。
「! 誰っ!?」


そして。
紫のターバンとマントを着用した、ミネアと同い年ぐらいの青年が現れた。
特にミネアの声に驚いた様子もなく、ぼんやりとした視線を向けてくる。
「…。ああ、こんにちは…」

…暗ッ。

「…ど、どうも…」
ミネアは適当に挨拶を返すと階段を降りていった。
(なんだか…話でもしたら暗いのが伝染しそう)
どうやらあまり関わりたくなかったようだ。


青年――サトチーが種の入った宝箱を見つけたのはその30分後だった。
律儀で薄幸な彼。
また複雑な気持ちになりながらも、ラックの種を頬ばったのは言うまでもないであろう。

【ミネア 現在位置:アリアハン城下町 所持品:賢さの種×3
 行動方針:? 願い:姉、マーニャの更正】
【サトチー 現在位置:ルイーダの酒場二階 所持品:?
 行動方針:? 願い:グランパニア王家のネーミングセンスを一般人並にする】








127<殺す>

バッツの逃げ込んだ先にソロは侵入を試みる。
いちいち別のルートを探そうとするのも勺にさわるソロは、
「いいさ、派手にやってやる」
ギガデインと発音しようとして大きく息を吸った。
雷によって城門が粉々になるのをイメージしながら。
前を睨み、すっと指を点に指し示して、ソロは今、天空を駆ける呪文をはなつ!
「ギガ!」
突然城門とソロの間に赤いドアがあらわれた。
「ユウナ、いるか?」
ガチャリとドアが開かれ出てきたのはキマリ。ロンゾ族の一員。

ソロは絶句し、たかく掲げた指をそのままに立ち尽くした。
あたりを見回しながら、キマリは相手がソロだということも知らずに訊く。
「お前、ユウナ知らないか」
棒立ちのソロ。自分の前にいるのは彼の眼からすれば、どう見ても魔物。
アルテマウェポンのオーラが弾け飛ぶ
ソロの眼に毒気がまじり出したのは、それからだ。

「目標確認……おまえのような存在は必要とされていない」
ソロは低い声でうなり、右腕を中段までもっていく。
「はあっ」
鋭い突き、キマリを串刺しにしようと構えられたウェポンの突っ先。
蒼い閃光がキマリの横を通り過ぎた。
「……」
ソロは荒い息をつく。
キマリは寸前のところで、身を振ってかわした。

ドアまで駆けていきおいよく扉を開くキマリ。
「……失格しても、いいのか?」
それだけ言い残し、ドアと彼はすっと消えた。

予想より速い動きにソロは舌打ちをした。ドアが消えたあたりを睨んでアルテマウェポンを一刀、振った。
とりあえず今度あったときは倒す……そう心に決めたソロであった。

【ソロ 現在位置:アリアハン城門前 所持品:アルテマウェポン 行動方針:バッツ、キマリを殺す 願い:ピサロの完全抹殺】
【キマリ 現在位置:ワープ中 所持品:どこだかドア 行動方針:ユウナを探す 願い:?】
※どこだかドアは、必ず目的地『以外』の場所に出現するドア








128<誇り高い信念>

「・・・さて、これからどうする?」
「さあな」

レオとベアトリクス。
お互いに放ったショックで穴だらけになった平原にたたずむ二人の将軍。

つい先程まで激しい戦闘を繰り広げていた両者だったが、実力が全くの互角であったため、
勝負がつかないままキーアイテム発表の放送を聞くことになり
二人は、このまま闘っていても体力、時間の無駄と感じ、このアリアハンステージに限り休戦を結んだのだった。

「私はアリアハンという街に引き返そう。キーアイテムを探すには大きな街の方が都合がいい」

レオはそう言うと、お前は?と問いかけるようにベアトリクスを見た。

「・・・私は北にある村へ行く。先程から幾度か爆発あった。ガーネット様が心配だ」
「ガーネットとは?」
「私の主君だ。このレースに参加しているのも全てはガーネット様のため」
「・・・フッ、なるほど」

レオは肩を震わせてクックッと笑った。
それを見てベアトリクスは怪訝な顔をする。

「何がおかしい?」
「・・・いや、お互い形は違えど国のためにこのレースに参加しているのだな、と思ったのでな。
どおりでお前の剣からは邪念は感じられなかった訳だ。気に入ったぞ」
「フン、人のことは言えないだろう?お前の剣からも強い信念のような物を感じたからな」

二人はニヤリと顔を見合わせた。
どうやらこの二人は武人として、強さと志に感嘆し好敵手と認め合ったようだった。

そしてレオは草薙の剣を、ベアトリクスはメタルキングの剣をそれぞれ交換した。
これが武人として最高級の礼を尽くす証だった。

「・・・しかし、次のステージで出会った時は我らの決着をつける時。我が剣がお前を倒す」
「それはこちらのセリフだ。たとえお前の主君がいようと容赦はしないぞ?」



互いに高々と上げた手を、パァン!と勢いよく鳴らし、
レオは南へ。ベアトリクスは北へと歩いていった。


・・・誇り高い信念をその胸に抱いて。



【レオ 現在位置:レーベの村へ北上する道 所持品:メタルキングの剣
 行動方針:アリアハンへ、キーアイテム捜索 願い:ガストラ帝国の皇位に就き、国を立て直す】
【ベアトリクス 現在位置:レーベの村へ北上する道 所持品:草薙の剣
 行動方針:レーべの村へ、ガーネットを探す 願い:?】








129<カメハの強がり>

いざないの洞窟から出てくる小さな二人。カメハとスコールである。
「で、お前のマスターはどんなヤツなんだ?強いのか?」
「ポポロさんのことか?少なくとも、お前よりはずっと強くて品があって有能だ」
「ちぇ、つまんねえの。もっと俺を立ててくれてもいいんじゃないの?」
たんたんと答えるスコール。ふてくされたように答えるカメハ。
「俺は一度は魔…」
「静かにしろ。誰かいる」
「ちぇっ」
せっかくの武勇伝を中断されてしまい、カメハはつまらなさそうな反応を示す。
スコールが指さした先には、熊のような大男と農夫らしき男。マッシュとトンヌラである。

「トンヌラさん、これはどうだ?」
「いいや、これも命の木の実だよ」
マッシュがレーベの村に行こうとした矢先、キーアイテムの発表が行われた。
キーアイテムは5種類の種だという。もしかして、支給品に混じっているのではないかと袋を探っていた。
そのとき、種研究家であるトンヌラに出会ったので、手伝ってもらっているというわけだ。
もちろん、トンヌラ自身が種を持っていることは明かしていないが。

「全部命の木の実なんじゃねえの?」
カメハがそういいながら出てくる。
「お前、まだどんな相手かも分かってないのに…」
「大丈夫だって。この人達はそんなに危ない人じゃねぇよ。雰囲気で分かるんだ。で、お二人さんはどう思うんだ?」
「どう思うって…こんだけあるんだから一つくらいはあるだろ」
「いや、オラもここに種は混じってない気がするだよ…」
マッシュは楽観的な答えだが、トンヌラは否定的に答える。

そしてスコール。彼はある紙切れが木の実に埋もれているのに気付いた。
「おい、これ説明書じゃないのか?」
『内容:命の木の実1000個』


「で、これからどうするんだ?俺はこの大きな町に行くつもりなんだが」
アリアハンを指さしながら、マッシュが全員に尋ねる。
「オラはこのあたりを中心に行動するだよ」
トンヌラはこう答えた。種はすでに持っているので当然であるが。

「お前達はどうするんだ?」
「とりあえず、俺たちも町か村に行こうと思う。種はそこにあることが多いからな」
「おい、スコール、マスターである俺を無視して勝手に話を進めるな!」
スコールの答えに対し、カメハが文句を言う。
「じゃあどこに行きたいんだ?」
単に自分が無視されたのに文句を言っただけで、スコールと考えていたことは同じ。
だが、あとに引けなくなってしまった。
「…え、と、あ、そうだ、ここ!ここだよ!」
カメハが指さしたのはアリアハン東の祠。
「まあいいだろう。その後、順に町をまわるぞ」
カメハとスコールもまとまった。

「そうだ、お前達、途中まで一緒に行かないか?」
「俺は構わないが。お前はどうだ?」
「リーダーはこのカメハ様だぞ。それさえ構わないなら仲間に入れてやる」
マッシュの提案にカメハは思いっきり強がって答える。
「ハハハ、じゃあ決まったな。そうそう、俺はマッシュだ。よろしくな」

3人は祠に向かって進んだ。そこに何がいるのかは知る由もなく。

【マッシュ 現在位置:いざないの洞窟へ続く道 所持品:命の木の実400個ほど(いくつかは放置)
 行動方針:エドガー捜索 アリアハン東の祠へ 願い:?】
【カメハ 所持品:閉じこめの壷、たいまつ 現在位置:同上
 行動方針:同上 願い:優勝して100億年分のお菓子をもらう】
【スコール 所持品:黄金の鶴嘴 現在位置:同上 行動方針:同上、カメハに付いていく 願い:?】

【トンヌラ 所持品:ダイアのティアラ、ラックの種、力の種 命の木の実数個 現在位置:いざないの洞窟付近の泉周辺
 行動方針:スタミナの種と力の種を交換後、旅の扉へ 願い:ステータスアップの種の生産技術、量産技術の確立】








130<優越感は悪寒へと>

ニヤリ。
自然と笑みがこぼれてくる。
自分の命令に服従する少女が、一人出来たのだから。
(…これはいい「武器」を手に入れたもんだぜ。
自分の手を煩わせることなく、レースで優勝できる、最高の「武器」をな!)
ワッカは、森の中、一人突っ立って妙な優越感を感じていた。


森の中で一人、突っ立って不気味に笑っている姿は、どこか見たことのある姿だった。
最初は、あまりにキモ過ぎて本人だとはわからなかったけれど…
「ワッカさん!!」
ユウナは、ワッカの元へと駆け寄った。


「おっ、ユウナ!」
ワッカは、ニヤニヤをやめて、ユウナを自分の腕の中に迎え入れようとした。
だが、ユウナはその3歩分手前で足を止め、ワッカと距離を置いた状態で話し始めた。


「何をしてるんですか?」
「何をって…まぁ…そうだな…」
ワッカは、ティナのことを言うのをためらった。
「レースに参加する気がないんですか?」
「いや…あるぜ」
「じゃぁ何を?」
ユウナに迫られて、ワッカは返答に窮した。
「今は、キーアイテムを探してるんだぜ」
ワッカは、ほかにいい答えが見つからないので、そう言った。


「じゃぁ、一緒に探しませんか?一人より、二人のほうが便利ですから」
ユウナにそういわれて、ワッカは断れなくなった。断ったら、理由を聞かれそうだし。
「よし、そうすっか…」
「はい!じゃぁ、まずはあっちに行ってみましょう!」
嬉々としてユウナが指差した方向は、先ほどティナを遣った方向に違いなかった。


己の不幸をわずかに呪いながら、ワッカはユウナの後について行くことにした。
頼むから、あの少女に会わないようにしてくれ。
もし俺があんな事をしたのがばれたら…
ユウナはまだしも、ルールーに知れたら……
悪寒で、背中が震えた。
それだけは、勘弁してくれ。
ワッカは、ユウナにばれないように、スピラ流の祈りを、見物している神々に捧げた。

【ワッカ 現在位置:レーベ近くの森 所持品:なし 行動方針:ティナに会わないようにしつつユウナについていく 願い:?】
【ユウナ 現在位置:レーベ近くの森 所持品:? 行動方針:森を抜けレーベ方面へ&キーアイテム探索 願い:?】








131<お昼寝タイム>

紅いタマネギ頭を揺らしながら、バーバラは緑の平原を歩いていた。

このイベントはバーバラにとってうれしいかぎりだった。
卵を孵したり、魔法の勉強や、たまに下界を見下ろすなどして時間をつぶしていたが
なにぶん、大冒険を繰り広げた身としては、お城に閉じこもりきりなのは少し退屈なところもあり。
だからこれだけ大規模な娯楽に参加できるとあっては断るべくもなく。
ルールにしたって何の不都合もない。むしろ歓迎するところ。どんな願い事でもかなえてくれるなんて、
神様達も太っ腹。
「とりあえず思い浮かぶ願いとしては、みんなと暮らせる肉体ってところなんだけど。
お別れするときにもう会えないって覚悟もできてたし、絶対叶えて欲しい願い事ってわけでもないんだよねぇ」
願い事については、もし一番になるようなことがあったら考えることにして。
とりあえず久しぶりの大きな娯楽を楽しむことにする。
大広間では、いくつか知ってる顔を見つけた。
「エニクスもハッさんも相変わらずみたいだね」
今生の別れと思っていたのに、ひょんなことで会えてしまい多少複雑な気持ちだけど、
でもせっかく会えたのだから色々語り合おうと思ってた。レースが始まったらすぐに探しに行こうと。
支給されたものを見るまではそう考えていた。

袋の中に入っていたのは、本。題名は…
「え、えっちな本って。なんて直球ど真ん中なタイトル……」
しかもムダに10冊も。

それからずいぶん時間をとってしまった。
何せ人には会いたいけれど、いくら支給品とはいえ、こんなものを持っているとあっては
変な誤解を受けかねない。見せなきゃいいが、いつまでも見せないのは不自然だ。
知り合いは納得させられるにしても、初見の人の第一印象がコレになっては悲しい。
「燃やす」
そう思ったが、もしかしたら、見たままの物体ではないかもしれない。
念のため説明書を読んでみる。
「誰でも知りたいアレやコレ。読めばたちまちエロい人」
……逆に気になりすぎて燃やせなくなってしまった。

結局キーアイテムの発表があるまで、近くの森に隠れ、悩んでいた。
放送中、神と魔王の中には知った顔を見つけたけれど、誰も彼も暇なのかしら?
「ここでずっと迷っていても、時間のムダよね」
キーアイテムも発表されてしまったことで、もう決断する。
とりあえず説明書を燃やし、本の表紙などをを焦がす。
これでパッと見たところ、題名の分からない普通の本。読まれないかぎり、バレはしない。
たとえ読まれたとしても、すでに読んだ人ならなんだかんだ言える立場ではなくなるはずだ。
そうしてやっと、少しでも長くこのお祭りを楽しまなくてはと、歩き出したのだ。

ずいぶん時間をロスしてしまったが、他の人はもうすでにキーアイテムを見つけているだろうか。
誰かいるだろうと村を目指して歩いていると、その途中で人影を見つけた。
前方に広がる平野の少し遠くに、横になってる人と、その傍らに寄り添う人。
近付いてみると、自分よりちょっと年上ぐらいの2人の女性。
とりあえず声をかけてみようとした、が。
「…って、ええぇぇぇぇぇ!?」
ちょいと何をしてるんですか、おじょうさん??
なんで裸にするんですか!?
しかもこんな見通しのいい場所で!!
アッチョンブリケなバーバラをよそに、少女はテキパキと服を脱がせていく。
「もしかして…。これ、……そういうレースなの…?」
自分の持ってる袋の中身を意識し、ジト汗をたらす。
こうもその手の話題ばかり続くと、まさかと思うことでもありえそうで怖い。

と、悶々している間に、服を剥いでいた少女が立ち上がり、こちらに向かって歩き始めた。
バーバラがそれに気付いたときには、向こうも人がいることに気付いたようだ。
「え、えーと。こんにちは」
放って置かれた人は気になるが、ひとまずその気持ちを押し隠し、明るく挨拶をする。
だが少女は何も答えない。っていうか、いきなり持ってる杖を振りかぶる。
「ええ!?」
金属の輪を頭につけた少女は、気にしてみると様子が変だ。
「って、ラ、ラ、ラリホーーーーー!!」
慌ててこちらも眠りの呪文を叫ぶが、杖はすでに振りぬかれている。
すかさず襲ってくる睡魔。
「う……。…これって……、ラリホー…?」
穏やかな日差し、暖かな平原でのお昼寝はさぞや気持ちよく。
だが、そこで何が行われるかを想像すると素直に眠れない。
「うう、あたしもひん剥かれちゃうのかなぁ…」
眠気をこらえながらあちらを見ると、地面に突っ伏している。どうやらこちらのラリホーが届いた様子。
問題もなくなったので、安心して眠りに就くことにする。
しかし、眠りかけのぼんやりした頭の片隅を不安がよぎる。眠っていては、何をされるか分かったもんじゃない。
常識人ならともかく、変わった人間が来たらどうしよう。
バーバラの眠い頭の中に、なぜかモヒカン頭が浮かぶ。
バタリ

こうして、ほぼスッポンポンのファリスを含めた少女3人が、平野の真ん中でお昼寝タイムとあいなった。

【バーバラ(眠り) 現在位置:レーベ南の平原 所持品:エッチなほん(10冊) 願い:一応肉体が欲しい】
【ティナ(無意識)(眠り) 現在位置:レーベ南の平原 所持品:E操りの輪・ラリホーの杖 願い:(子供たちの幸せ)】
【ファリス(眠り) 現在位置:レーベ南の平原  所持品:たまねぎバスター 願い?】








132<空からの救い>

このレースが始まってからずっと続いていたイブールとルビカンテの対決。
一時はルビカンテ優勢だったが、リディアが人質となってしまってから、形勢は逆転した。
現在人質をとっているイブールがルビカンテを一方的に攻撃している。

「ククク…どうした?逃げてもいいのだぞ?もっとも、儂は貴様を見逃す気など無いが…」
「…人質を見捨て、貴様のような外道に背を向けるなど、私にはできないことだ」
「では望み通りここで始末してやろう」

ルビカンテには逃げるという選択肢はなかった。
隙をうかがい、リディアをイブールから引き離そうとしたが、それを知ってか遠距離から攻撃してくるので、無理。
リディアはすでに意識を失ってしまい、そのためチョコボも幻界に戻ってしまった。
「さて、そろそろ終わりにしようか。貴様は実に惜しい人材だったが、ここで時間を食うわけにもいかんのでな」
イブールが近づいてくる。殺しはしないだろうが、次の一撃をくらえば復帰不能は確実。

ルビカンテの目的は強い相手と戦うこと。神にかなえてほしい願いというものはなかった。
だが、少なくとも、このような退場は納得いくものではない。恨めしい。
ふと空を見上げてしまう。青々とした空。雲一つ無い空。澄んだ空気。そこに一つの黒い点。
殴りかかろうとしたイブール目がけて落ちてくるそれ。イブールも不審に思ったらしい。上を見上げた。

ドゴォォォォオオオ!!!!

イブールの顔面に直撃したのは大きな壷。思わずイブールはリディアを手放してしまった。
さらに、壷が割れ、中に入っていた液体がイブールにかかった。
「ギョエエエエ!!!!」
そして、壷の中から出てきた二人とごっつんこ。
最後に、ルビカンテの火燕流がイブールに直撃した。

イブールはあれだけのダメージを受けて気を確かに持てるはずもなく。
一方で、ルビカンテも魔力と体力を使いすぎて、意識を失ってしまう。
リックとリディアはすでに気絶済み。
そして、壷から出てきた二人…メルビンとパルマーもまた、落下時の衝撃に加え、
イブールとのごっつんこで目を回して倒れた。


数十秒後に、もう一つ上空から落ちてきたもの。パルマーの支給品。
その中には…ラックの種。

【パルマー{気絶。軽傷.下半身軽い火傷.素っ裸} 現在位置:レーベ西の海岸 所持品:無し 願い:?】
【メルビン{気絶。軽傷.下半身軽い火傷.ステテコ一丁} 現在位置:同上 所持品:無し 願い:邪悪なものの優勝の阻止】
【イブール{気絶。重症} 所持品:無し 現在位置:同上 願い:ミルドラースの世界征服】
【ルビカンテ{気絶。魔力・体力かなり減少} 所持品:炎のマント 現在位置:同上 行動方針:強い者と戦う 願い:特になし】
【リック王子{気絶・重症。危険状態} 所持品:? 現在位置:同上 願い:?】
【リディア{気絶} 所持品:魔法のビキニ 現在位置:同上 願い:母の蘇生】
※リックの支給品はリックのそばにあります。
※パルマーとイブールの支給品は全員の気付く場所にあります。








133<おかしな>

ジタンが歩いている。
その数メートル後ろ、ジタンを追う形でロザリーが歩いている。
ただ"なんとなく"いっしょに行動するおかしな二人は一言も言葉を交わさない。
だが二人はその沈黙を苦痛とは感じなかった。

二人は城下町へ向かっていた。
どちらかが行こうと言った訳ではない。
ただ、放送が終わった後しばらくして、二人同時に立ち上がった。
目的は同じだ。キーアイテム入手。
暗黙の了解とでも言うべきか。

しかし数十分後。
突然ロザリーがジタンの隣に並んだ。
ジタンが少し驚いた顔で――しかし歩みは止めず、何?と、ロザリーに尋ねる。

「…訊きたいのですけれど」
「え?」
「結局、ジタンさんの願い事は何なのですか?」
「…そんなこと訊いてどうするのさ?」
「…言えないような内容なの?」
「いや、そんなことないけど…」

…というか、まだきちんと決まっていない。
願い事なんて…まあ、あるけど。

「じゃあ教えてくれたっていいじゃないですか…」
「そっちが教えてくれたら教えるよ」
「私は愛する人に毎日会えるための願いを叶えたいと思ってます」
「さっきも聞いたよそれ。ていうか、何なのそれ?」
「それこそ、何でもいいじゃないですか?ジタンさんにとっては」

隣に視線をやると、ロザリーがにっこりと微笑んでいた。


二人はまた黙って、黙々と城下町を目指し歩く。
…これって、一緒に行動してる意味あるのかなあ。
ふと、ジタンは思った。

【ジタン 現在位置:アリアハン南 所持品:? 行動方針:城下町に行き、キーアイテム入手 願い:?】
【ロザリー 現在位置:アリアハン南 所持品:? 行動方針:城下町に行き、キーアイテム入手 願い:?(ピサロ関連?)】








134<先客には見えていた?>

モンスターは基本的に種族によって差別されるということはない。
でも私は他種族からは見えない。だから、どうしても忘れ去られてしまう。
私がいると分かっているときには何かと声をかけてくれる同僚もいたけれど、
どうしても疎外感を感じてしまう。
見えないということで、非常に有利な面はある。不意打ち、泥棒、敵の誘導、偵察などなど…
でも、マスターは最近異世界の迷宮とかいうところに入り浸りで、それ以外のダンジョンに潜る際も
ハリーやサンドラ達のようなメンバーで固定だから、見えない必要はないだろう。
むしろ、みんなに自分がいることを認識して欲しい。

現在、私は城下町の南に位置する民家の中にいる。先客がいるらしい。
2階に上がると、一人の男性がタンスの引き出しを開けているのが見えた。
見ていて気分がいいことでは無いし、やっている側も不本意そうである。仕方ないことだが。
何か見つけたらしい。力の種のようだ。
支給品の袋は目立つから隠しておいた。どうせ見えないから、正面から向かっていっても大丈夫だろう。
あれ?男が詠唱をし始めた。もしかして、後ろに誰かいるのだろうか?振り向いてみたが誰もいない。
じゃあ対象は…
「ラリホー」
どうして自分がいるのが分かったのだろう?目薬草?シャドーの指輪?もしかして初めから見え…‥‥・・・


「微弱な魔力を感じたのでもしやと思ったが、やはり誰かいたようだな」
何かが床に落ちる音がしたのを聞いて、マサールは確信する。
「済まないが、わしにもかなえたい願いがあるのでな。しばらくすれば目が覚めよう。荷物は奪わないので安心せい」
何を思ったか、窓から空を見上げるマサールであった。

【マサール 現在位置:勇者アルスの自宅2F 所持品:? 行動方針:いざないの洞窟へ 願い:悪夢からの解放】
【あやか{睡眠中} 現在位置:勇者アルスの自宅2F 所持品:? 行動方針:キーアイテム探し 願い:姿が見えるようになる】





135<オメガの勲章>

海岸からさほど変わらずの光景。
が、そうではない現実もあった。
砂という砂、細かい粒子がジタンとロザリーの全身を打ちつけていた。
海から吹く風がここまで勢いをおとろえずにうなり続けていた。
眼や耳に砂がはいりこんで、ジタンたちはたまったものではなかった。
「ちくしょう、なんでこんな砂漠を歩かなきゃならないんだよ」
ジタンは目を細めて、隣を歩いているロザリーを見た。
両手で握りこぶしをつくって胸のあたりに当てているロザリーは、痛みに耐えているような印象だが、
実際のところはそうではなかった。
ロザリーは、この砂嵐のなかで一種の快感のようなものを感じていた。
いままでの穏やかな生活からは考えられない風景、ちっぽけで無力な自分が自然の猛威をもろにうけて、
世界の果てのような枯れた土地をさまよい歩いている、そんな今の現実をどこか楽しいと思っている。
まるで旅行に行く前日の心躍るうきうきした感情、子どもっぽくおおはしゃぎで、とでもいうような。
だから、ロザリーの言うことは、少しずれていた。
「なんだか幸せです」
「はぁ、幸せ?」
喋ったせいで砂が口に入ってしまった。ぺっと唾をはきながらむずがるジタン。
「こういう旅もいいものだと思ったんです。私は森に住む種族ですから、砂漠というのが初めてで」
ジタンは顔じゅうがむずむずし始めた。鼻の下がゆるみだす。
「危機的状況を楽しんでるのかよ、いいよなあ、そういう性格は」
そしておもいっきりくしゃみをした。
「オレははやく砂漠から出たいよ、ちょっと走るぞ」
ジタンは身をかがめて疾走前のポーズを決める。
「行くぞ」
「え、待ってくださいよ」
ジタンが走りだすのをみて、ロザリーもあわててスカートをおさえ走り始めた。

二人はなんとか砂漠を抜け、薄く緑草の生える地帯までやってきた。
頭からつま先まで、とにかく体全体を手で払って砂を取りのぞく。ジタンはやれやれといった様子で、ロザリーは
どこかしら嬉しそうな顔で。


もう風はやんで落ち着いていた。ジタンは大きくのびをして一息ついた。
遠くまで景色が見渡せる。そして……近くに祠がある。
ジタンは口元をぬぐい、目線を使ってロザリーに祠の存在を教えた。
「あそこにキーアイテムなんかあったりしてな」
口の中の砂交じりの唾液が気持ち悪かったジタンはしぶい顔だった。
「あの放送、やっぱりそのことを言ってたのですね。私はちょっと聞き取れなくて」
ロザリーは髪をはたきながら笑顔で答えた。
ジタンはそれをじっと見つめる。
「本当に楽しそうだよなあ。……あれ、なんだっけ、ロザリーさんの願いは。……えーと、『愛する人と毎日会える
 ようになりたい』? それってなんかもっとしとやかっぽい性格の人の願い事のように聞こえるけどなぁ」
そう意地悪そうに言うジタンに対して、
「あ、実はそうなんです。私はいつもはそうなんですけど、今はなんだか気分がすごく良くって、普段の私と
 ちょっと違うんですよ。全然、違うんです!」
ロザリーは汗をかいていた。全力で否定しにかかったのだろう。
ジタンは頭を掻いた。
「うーん、どっちが本当のロザリーさんの性格なのか……ま、いいや、とにかく面白い人ってことだな」
さらっと流してしまったジタン。
「お、面白い人……」
ロザリーは言葉につまってしまった。
「じゃ、とりあえずあの祠のなか探ってみようか、本当に種があるかもしれないし」
そう言って歩き出すジタンの表情は、さっきとは変わって晴れやかなものだった。
ロザリーはそんなジタンのあとをついていった。複雑なものを抱えながら。

二人は祠のなかへ入った。しばらく進むと扉があった。
ジタンは引き戸を開けた。
「おじゃましまーす、なんてな」
声が反響した。
「邪魔するなら帰れ、ファファファ……」
黒い影が二人の視界を覆い尽くした。
「なにっ、誰だ」


声の持ち主、暗黒魔道士エクスデスがベッドの上にその姿をあらわした。
「ひとり、ふたりか。飛んで火にいる夏の虫は」
エクスデスは仮面をつけたままで笑った。奇怪でするどい気配がジタンとロザリーを襲う。
「私はエクスデス。キーアイテムを渡してもらおうか」
ジタンは後ろ手で慌てふためくロザリーを制する。
「そうか、待ち伏せかよ。確かにそれが一番いい方法だろうな……」
こいつは間違いなく強い、とジタンは確信した。エクスデスの体から発するオーラが尋常なものではないのだ。
キーアイテムを持っていないとわかれば見逃してくれるような相手ではないことも、確信した。
「おとなしくしていれば、痛い目に会わずに済むぞ」
「へっ、やだね」
ジタンはロザリーにそっとささやいた。
「オレが飛びかかったらそのスキに遠くへ逃げろ、いいな」
ロザリーは瞳を震わせた。
「あ、あなたは?」
「いいから、とにかく遠くだ」
ジタンがそう言葉を覆い被せたとき、エクスデスが動いた。
「わかったなっ」
その瞬間、ジタンも突進した。

空中でジタンとエクスデスが取っ組み合う。
「小僧、死ぬ気か」
「殺せるわけないくせに!」
エクスデスは着地する瞬間、蹴りを食らった。
「くっ小僧」
両者は離れて対峙しあう。だがそれも一瞬。
「ファイアッ」
指輪を嵌めたエクスデスの小指から火の玉が飛ぶ。ジタンは炎に包まれたが、かすり傷程度だった。
「効かねえよ!」
ジタンは俊敏に左右に動いた。相手をかく乱しようとする。
「くう、力の加減が難しい」

エクスデスは下手に強力な魔法をつかってジタンを殺してしまうことを恐れたのだ。
しかもジタンは動きが速いため魔法の威力が拡散されてしまう。どの程度魔力を絞っていいのか見当が
つけ辛かった。

「ジタンさん、やはり一緒に逃げましょう」
そのときロザリーの声が祠内に響いた。彼女はまだ引き戸のあたりで留まっていた。
エクスデスは舌なめずりをした。仮面の下で。
「バカっ、まだいたのかよ」
ジタンが振り返ったとき、ロザリーは紋章のようなものを肩に身につけていた。これから遠征に出かける騎士のように。
「私も闘う勇気はほしいんです。待ってばかりではいられません。願い事は……かなえられそうにないですから、
 今までの私みたいな弱い者では」
エクスデスはロザリーに向かって突撃した。
「ファファファ、なら弱そうな貴様を」
くそっ、とジタンが床を蹴ってロザリーのもとへ向かうが、スピードはエクスデスの方が上。
「だから逃げろっていったのに!」
このままではロザリーが人質に取られる、ジタンは全力で走るが、間に合いそうに無い。
「ちくしょう!」
エクスデスが笑う、やはり仮面の下で。

ロザリーは敢然と扉の前に立ちふさがった。強い意志をみせるように肩をつきだして。
その刹那、エクスデスは凍りつく。
「な、なんだと、貴様、オメガを倒しているのか!?」
ロザリーの肩についていたのは、まぎれもなくオメガの勲章だった。
「ば、ばかな、あんな小娘が……」
次元の狭間、滝の流れる暗い通路をこそこそと横切った過去の自分を思い出す。
「し、しんじられんが、間違いなくあれはオメガの勲章。くっ、実は強いのか小娘! ……出直しだ」
エクスデスはものすごい勢いで祠の外へ瞬間移動した。
そして、南の方向へ逃げ出した。

【エクスデス 現在位置:祠から南へ逃走 所持品:イブールの本
 行動方針:祠に立ち寄った参加者からキーアイテムを奪う  願い:「無」の力を得る】
【ジタン 現在位置:祠の中 所持品:? 行動方針:城下町に行き、キーアイテム入手 願い:?】
【ロザリー 現在位置:祠の中 所持品:オメガの勲章 行動方針:城下町に行き、キーアイテム入手 願い:?(ピサロ関連?)】






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